アニメーションの起源とは・・・

 
 アニメーションの起源として、決まって、フェナキスティスコープ(驚き盤)、ゾートロープなどの、いわゆる映像玩具や、幻燈、写し絵などの原始的な映写装置が挙げられる。
 確かにこれらの装置は、「止まっている絵を動いてみせる」ものであり、アニメーションの原理と解釈されるものであり、海外の文献をみても、おおむねそうした説明が成されているが、私個人としては、映像玩具類をアニメーションの起源とする考え方には、どちらかというと否定的だ。
 フィルムに記録された映像を映写することで、観客へ向けて同時的、均一的に、かつ繰り返し同質のものを提供できる映画(アニメーション)とは異なり、映像玩具類は、極めてライブ性が強い。
 このことは、逆に言うと、映像玩具類が映画とは全く異なるメディアであり、「アニメーションの起源」などと、言葉は悪いが「矮小化」して評価すべきではないという考えに行き当たる。
 最近、私は写し絵のライブを実見して、その素晴らしさを体験するに及んで、これは映画やアニメーションとは全く別の独立した芸能であり映像メディアであると、あらためて思った次第である。
 
 とはいえ、映像文化史におけるアニメーションを考察しようとする際、映像玩具類や写し絵に関する基本的な知識は不可欠である。
 関連文献はいくつかあるが、ここでは2冊紹介する。
 特に、アニメーションの定義に関する議論に興味のある人は、ここで挙げる2冊を含め、関連文献に眼を通しておきたい。
 
 ●「映画の考古学」
  著 者: C・W・ツェーラム(月尾嘉男・訳)
  出版社: フィルムアート社
  刊行年: 1977年(1994年再版)
  定 価: 4500円
 
 
 
 映像玩具にとどまらず、影絵、写真、幻燈、そして映画の誕生に至るまで、まさに「映画の考古学」に関する内容を網羅しており、しかも図版が非常に豊富で、読むための本というよりは見るための本という体裁になっている。「図版の事典」としても、手元に置いておきたい。
 
 
 ●「幻燈の世紀」
  著 者: 岩本憲児
  出版社: 森話社
  刊行年: 2002年
  定 価: 3600円
 
 
 
 西洋幻燈の成り立ちから、日本の古典的な映像装置類、すなわち走馬燈、影絵、覗きからくり、そして写し絵まで、「映す」映像装置についての知見を豊富に盛り込んだ労作。巻末の文献リストも網羅的で、参考になる。
 本書を一読すれば、写し絵というものを一度見てみたくなるだろうが、機会は少ないながら、現在でも写し絵の実演は行われているので、ぜひ機会を得て見てほしい。
 そして実見すれば、繰り返しになるが、写し絵が「アニメーションの起源」ではなく、全く独立した、優れた映像芸能であることが理解できるだろう。