実験映像とアニメーション

 
 広島国際アニメーションフェスティバルに参加して、グランプリは山村浩二カフカ 田舎医者』、グランプリに次ぐヒロシマ賞は加藤久仁生つみきのいえ』という、日本人作家のワンツー・フィニッシュに立ち会うことができて、しばし充足感にひたっていたわけだが、そろそろ、こちらの文献紹介も再開していこうと思う。
 
 実験アニメーションという語があって、これは国際的にも一分野を形成しているジャンルなのだが、やはり一般には、小難しい、見る機会が少ない、資料も少ない、という「三重苦」ゆえ、アプローチも容易ではないのだが、それ以上に、実験映像作家が、いわゆる「映画」と「アニメーション」の境界線を明確に区別することなく、いやむしろそれを区別しないというのが、実験映像作家の一つのアイデンティティになっているところがあり、このことが、少なくともアニメーション愛好家にとって、取っ付きにくい要因になっている気がする。
 しかし、あらゆる芸術分野において、既存の観念やカテゴリの破壊と再生を試みてこそ新たな領域が開けてきたのであり、今、日常的にCMやプロモーション映像などで使用されているさまざまな手法が、実はかつて実験映像作家が開拓してきた道筋の延長線上にあることを、もっと認識すべきだろう。
 
 ということで、実験映像・アニメーションに関する文献を2つ紹介したい。
  
 
 ●「日本実験映像40年史」
  編 者: イメージフォーラム
  発 行: キリンプラザ大阪
  刊行年: 1994年
 
 
 
 1994年11月〜12月にかけて、キリンプラザ大阪で開催された展覧会の公式パンフレットである。東京でも同じ展覧会が開催されているのではないかと思われるが、未詳。
 全128ページ、かわなかのぶひろによる「実験映像私史」にはじまり、展覧会で上映された新旧約150本の実験映画の図版とデータが掲載されている点が極めて貴重で、西嶋憲生と西村智弘による「日本実験映像年表」も参考になる。
 最近、一級施設での映画関連の展覧会があっても、なかなかこうした後年活用できるパンフを作ってくれなくなったが、その意味でも貴重な資料集である。
 
 
 ●「メディアアートの世界 実験映像1960−2007」
  編 者: 伊奈新祐
  出版社: 国書刊行会
  刊行年: 2008年
  定 価: 2200円
  
 
 
 今年刊行された、実験映画、ビデオアート、アニメーション、CGなどさまざまなメディアアート作家が寄稿した論集。
 アニメーション関連では、「第2部 アニメーションとCG」という項で、人形アニメーション『緑玉紳士』の栗田安朗、スケッチブックを使った独特の抽象アニメーションで知られる米正万也、CG作家の赤山仁が寄稿しているほか、実験映画大御所の松本俊夫かわなかのぶひろ、相内啓司らも健筆をふるっている。
 読み物的性格が強いが、巻末には「戦後実験映像/メディアアート史」として年表がまとめられており、参考になる。
 
 「日本実験映像40年史」は入手困難。古書店等でこまめに探索するしかないが、「メディアアートの世界」は普通に購入できる。