アニメ制作のハウツー本というのは、今も昔も出版されており、古くは大正時代末期に出版された文献も確認できる。
ハウツー本は、文字通りアニメを作る人のための本で、研究者には不要なものと思われがちだが、決してそうではない。
第一に、アニメ制作の具体的な工程、用語が覚えられる。これらを正確に知っているかどうかで、実際に作品を見て評価しようとするときに、差が出てくる。第二に、その時代ごとに、アニメ制作技術がどのように説明されているかを知ることによって、技術の変遷史を追うことができ、これも作品を評価しようとするときに役立つ。
というわけだが、最近出版されているハウツー本は、かなり実践的に書かれてあるため、研究者が「読んで楽しく、タメになる」というものとは少し違うようだ。
そこで、古典的な文献ではあるが、研究者が読んで役立ち、かつ楽しく読める文献を2つ紹介したい。
●「12人の作家によるアニメーションフィルムの作り方」
編 者: 日本アニメーション協会
出版社: 主婦と生活社
刊行年: 1980年
さまざまな手法を得意とする12人のアニメーション作家が、それぞれのアニメーション制作法を解説するという内容。その12人とは、手塚治虫、古川タク、鈴木伸一、福島治、林静一、島村達雄、川本喜八郎、岡本忠成、亀井武彦、中島興、田名網敬一、そして相原信洋。
それぞれの分担ページは決して多くないので、制作法の概要が述べられている程度なのだが、半立体アニメ(岡本忠成)や屋外アニメ(相原信洋)など、作りたくても作り方がわからなかった手法については、当時ずいぶん参考になったことと思う。
なによりも、セルアニメから立体アニメ、フィルムへのダイレクト描画、スチールアニメまで、12人が語るアニメ制作法は非常に多彩で、また読んでいても分かりやすく、楽しいところが素晴らしい。
私は、人形アニメ担当の川本喜八郎の章と、半立体アニメ(毛糸アニメ)担当の岡本忠成の章が、特に面白く、参考になった。
●「アニメと特撮」(小型映画 ハイテクニックシリーズ)
編 者: 小型映画編集部
出版社: 玄光社
刊行年: 1970年
かなり古い文献だが、そうであればあるほど、この当時これほどの内容の本が出たことは驚きだ。タイトルのとおり、アニメと特撮の制作法を解説したムックだが、ページの大半はアニメ制作法で占められている。
国内外の多くの作品を例示しながらアニメーションの手法を解説する章にはじまり、セルアニメのさまざまな(人物からエフェクトまで)作画法と、人形アニメーションの造形法とアニメート、撮影法が、詳しく解説されている。解説に登場する人も、藪下泰次、森やすじ、持永只仁、渡辺和彦など、重鎮が多い。
読んでいて非常に参考になるし、面白い。B5判、約230ページは、まさにアニメ基礎知識の宝庫である。
どちらも古書を入手するしかないが、特に「アニメと特撮」は入手困難。
しかし、図書館の収蔵品をコピーしようとすると、結局全ページコピーしたくなること必定で、ぜひ、古本屋を巡って原本を探して欲しい。
ちなみに、今見てみたが、どちらも「日本の古本屋」で購入可能だ。
現在、「12人の・・・」は2件! 「アニメと特撮」は1件!!