比類なき長編アニメーション映画祭 ―― 第2回新潟国際アニメーション映画祭を見て(後編)

3月15日~20日まで開催された第2回新潟国際アニメーション映画祭(新潟フェス)について、前編ではコンペティション部門への応募作が大きく増え、国際映画祭として高く評価できる点を書いた。

後編では、コンペ作について、具体的に述べてみたい。

全12作を見て感じた全体的な印象からだが、49作の応募作から12作を選出した選考審査委員は、作品の出来の良い順に12作を選んだのではなさそうだ、というものである。

長編アニメといってもさまざまな技法、ストーリーなどがあり、制作国のお国柄や、何より制作者の独創性によって、その内容はさまざまである。49の応募作の全貌を私は知らないので、私の想像になるが、今回の12作は、技法であれば2D手描き系、2Dライブアクション系、3DCG、ストップモーション(人形)まで、多様な選出になっている。ストーリーでいえば、エンタテインメント、民族問題、環境問題、ジェンダー、ドキュメンタリーまで、これまた多様な選出になっている。

つまり、長編アニメとしての完成度とか、統一的な評価軸とかよりも、1作1作の選出に意味を持たせ、現況を提示し、未来を問うラインナップになっていたのである。

結果として、コンペ12作の中には、なぜ入ったのかわからない作品もあるにはあったが、全体としては前回とは比較にならないくらいの充実度で、私は研究者としても一人の観客としても、映画祭への感謝の意を深くした。

 

12作の中で、私が特に好きになった作品は『ケンスケの王国』(N・ボイル&K・ヘンドリー監督、イギリス、2023年)である。家族4人と愛犬1頭でイギリスを出港した大型ヨットが時化に巻き込まれ、少年マイケルは海に投げ出されて、気がつけば絶海の孤島に流されていた。その島でマイケルは、言葉の通じない老人に会う。彼は、旧日本軍の残留兵で、名はケンスケ。少年と老人は、互いに手探りながら、島の動物たちとともに奇妙な共同生活に入る。

派手さはないが、マイケルとケンスケとのコミュニケーションは私の心に染み入り、ラストシーンも納得できるものだった。

もっとも、冷静に見ればかなり大胆な設定で、突っ込みどころはあるし、作品のタイプからして受賞はないだろうなと思った(実際受賞はしなかった)が、私にとっては「豊かに物語る」長編アニメらしい仕上がりになっていたところが嬉しかった。

残留兵の老人の声優はKen Watanabe(渡辺謙)で、後から調べたら数年前から本作と渡辺謙が出演することは一部メディアで報じられていたようだが、エンドロールで観客みんなが驚いたのではないだろうか。

一方、グランプリを受賞した『アダムが変わるとき』(J・ヴォードロイユ監督、カナダ、2023年)は、私にはデザイン、アニメート、キャラクター、ストーリーからみれば、エストニアクロアチアなど、旧東欧圏のかつての短編アニメーションを思わせた度合いが大きく、新規性や独創性をさほど感じなかったので、グランプリは少々驚いた。授賞コメントには「この作品は、生きることのぎこちなさについてとても深い何かを語っています」とあったが、まさに「深い何か」でとどまってしまっている、というのが私の印象だった。

賛否が大きく分かれそうな仕上がりながら、私が感銘を受けたのが『オン・ザ・ブリッジ』(S&F・ギヨーム監督、スイス/フランス、2022年)である。「あの世」へ旅立つ電車に乗り合わせた人々の声、会話で構成された作品で、声は実際にホスピスなどで生活する人たちに語ってもらったという。時おり映し出されるダイナミックな映像と、ライブアクションによる作画、明暗を強調した画面などが重なり合う。

受賞はしなかったが、アニメーションって、やっぱり表現できる幅が広いなと、あらためて感じることができたのが本作だった。

見ていて楽しめたのは、コンペ作品唯一の人形アニメーション『インベンター』(J・カポビアンコ&P-L・グランジョン監督、アメリカ、2023年)である。レオナルド・ダ・ヴィンチの晩年の数年間をモチーフにしながら、コメディ、ミュージカルも盛り込みながら、子どもにも十分楽しめる良質のエンタテインメントに仕上がっていた。レオナルドのセリフ「人間のタイプは3つ。見る人、言われれば見る人、見ない人」にはハッとさせられた。本作は「奨励賞」を受賞した。

そのほか、新潟フェス独自の「傾奇賞」に『アリスとテレスのまぼろし工場』、境界賞に『マーズ・エクスプレス』(J・ペラン監督、フランス、2023年)が選出された。後者はいかにもプロダクションIGっぽい造形が印象に残ったが、友人の研究者は、フランスで今 敏が人気を得ている理由がわかった、と語っていた。

 

世界の潮流、レトロスペクティブなど他のプログラムをほとんど見なかったので、映画祭全体の取材記者としての責務は果たせていないが、私はいつも書くように、国際映画祭の独自性や充実度はコンペティション部門が最重要と考えている。

その意味で、第2回新潟フェスのコンペ部門は間違いなく大きく成長し、おそらくさらに国際的評価を高めることになったと思う。これだけ多様で、興味深い長編アニメーションが一つのスクリーンで上映された点は、主催陣は誇らしかったのではないか。

最後に一つ、提案というか要望がある。それは、公式パンフレットでの、後々引用できるデータ面の記載である。

具体的には、応募作の内訳(制作国ごとの応募数)を一覧表で掲載してほしい。この種の一覧表は、旧広島アニメーションフェスティバル、新千歳空港国際アニメーション映画祭の公式パンフでは掲載されているが、新潟ではそれがない。昔と違って、制作国(作品の国籍)が複数にわたり、こうした一覧を作成する難しさもあるだろうし、数字は数字でしかないが、同時に数字は経年で並べると、それ自体が雄弁に語る側面もある。

2025年には第3回開催となり、新潟フェスが国際映画祭として確固たる地歩を固めるための重要な大会になると予想される。大きな期待を、1年後に送りたい。