ひろしま、新千歳、東京、そして新潟 ーー 第1回新潟国際アニメーション映画祭を観覧して(前編)

 この3月17日から新潟国際アニメーション映画祭が開催された。会期は6日間にも及び、長編アニメ専門のコンペティションというユニークさが際立つ映画祭の、記念すべき第1回である。

 日本開催の国際アニメーション映画祭は長らく広島国際アニメーションフェスティバル(広島フェス)がその役割を担ってきたが、これは2020年のコロナ禍によるオンライン開催を最後に30数年に及ぶ歴史に幕を閉じた。この広島フェスの後を受けて、昨年8月に第1回として開催されたのが、ひろしまアニメーションシーズン(アニシズ)である。

そのほか、昨年11月に第9回目の開催となった北海道・新千歳空港国際アニメーション映画祭、そして今年3月に第10回目となった東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)が順調に実績を積み重ねてきている。そこへ新設されたのが新潟フェスである。

 今回は新潟フェスの印象を、前編、中編、後編の3回に分けて書いていくが、この前編では、新潟フェスの位置づけや役割を明らかにするため、既存のアニメーション映画祭について述べようと思う。

 

 世界各国から新作を公募し賞を競う形の日本初のアニメーション映画祭は、1985年に第1回が開催された広島フェスである。上映時間30分以内の短編アニメーションが対象の広島フェスはほぼ2年に一度開催され、30年以上にわたって多くの新人たちの登竜門となった。

 しかし、アニメーションについての文化的認識の変化とか技術的革新が進んだとか、そういった状況変化に広島フェスは十分対応できていないという意見も出てきた。広島フェスは古典主義的に過ぎる映画祭となったが、逆に言えばそれが広島の特徴でもあった。

 特にアニメーション映画祭であれば、短編であっても「学生部門」「コマーシャルフィルム部門」などのカテゴリーが設けられ、そのカテゴリーごとに授賞するのが通例だが、広島フェスにはそれがなく、ベテラン作家の力作を押しのけて学生作家の作品が受賞することもあった。

 

 こうした中で、世界的なアニメーションの趨勢に追いつこうという意図で開催されたのが新千歳フェスだった。フェスを統括するフェスティバルディレクター(FD)を中心として、世界のアニメーションの「いま」を提示し、観客を驚かせようという意欲が強く感じられる、啓蒙的色彩の濃いものだった。

 一方、ほぼ同時に始まったTAAFは、初回から長編アニメ部門が創設された。私個人はかなり以前から短編専門の広島フェスにも長編部門があればと考えていただけに、嬉しかった。また、コンペティションに選出される作品は短編、長編ともエンタテインメント性を重視する傾向が感じられ、これもTAAFを特徴づける要素となった。

 長編部門は、新千歳フェスでも第5回から創設されたが、新千歳の大きな特徴と感じられたのは第2回から「日本コンペティション」、つまり日本人作家の作品だけを集めたカテゴリーを設けたこと、その後も北海道在住・出身作家の特集上映や、地元の子どもたちを審査員とした「キッズ賞」の創設など、地域性を重視してきた点である。

 

 昨年第1回が開催された広島のアニシズは、カテゴリーがさらに斬新なものだった。「環太平洋・アジアコンペティション」と「ワールドコンペティション」とに分け、また「ワールド」ではさらに「寓話の現在」「社会への眼差し」「物語の冒険」「光の詩」「こどもたちのために」という名称の5つのカテゴリーに分けて審査された。大いに驚いたのは、長編と短編とを分けず、この5つのカテゴリーに振り分けた点である。

 しかし、「環太平洋・アジア」ということは、日本など東アジアとは地球の反対側の中南米の作品が同一のコンペに入る。また、「ワールド」での5つのカテゴリーは抽象的でありながら観客に先入観を強いる側面もあった。長編と短編が一つのカテゴリーに入るなど、私には考えもつかなかった。旧来の広島フェスを見直し、またヨーロッパ中心の短編アニメーションの価値観をも脱却して、アニメーションの新しい評価軸を「アニシズならでは」として目指そうという意図は評価できるものの、正直なところ観客には戸惑いも拡散した。

 コロナ禍以前の2018年広島フェスと比べて、第1回アニシズは観客が4割減と伝えられた。コロナの影響で海外からのゲストはほとんどおらず、また国内移動も制限を余儀なくされる中で、この4割減をどう捉えるかは難しい。

 しかし私が見た限りでは、閉会式の閑散とした観客席は残念だったし、私が知る多くの広島フェス時代の常連客が不参加だった。観客自体を刷新したいという考えが、アニシズ首脳陣の胸中にあるのかもしれない。

 それは一つの考え方だと思う。さまざまな課題を指摘されながらも変われなかった(変わらなかった)旧来の広島フェスを刷新するとなれば、そのくらいの気概も必要だろう。

 だとすれば、肝心なのは次回である。広島フェス時代からずっと課題だった地元観客へのアピールを含めて、2024年夏の第2回大会で、その真価が問われるだろう。

 そして、この「第2回大会が問われる」は、今回の新潟フェスでも強く感じた。

中編に続く)