新千歳空港国際アニメーション映画祭 :未来志向の発信力と今後

新千歳空港国際アニメーション映画祭
 http://airport-anifes.jp/
 
 1ヶ月近く前の話題になってしまったが、11月2日から5日にかけて開催された北海道・新千歳空港国際アニメーション映画祭に今年初めて参加することができたので、書いておきたい。
 日本で「国際アニメーション映画祭」といえば、1985年からほぼ2年に1度開催の広島国際アニメーションフェスティバルが有名である。フランスのアヌシーなど国外のフェス参加経験のある人は少ないだろうし、日本でのアニメーション映画祭のイメージは広島が形成してきた。私自身、30年にわたる広島にはほぼ毎回参加し、その歴史や成果、経年変化、そして課題も目の当たりにしてきた。
 そうした中での新千歳の第一印象は、「広島とはまったく違う、新たな価値観の形成を恣意的かつ意欲的に目指している」というものだった。
 
 国際映画祭のメインプログラムは、新作がグランプリを競う「コンペティション」である。広島では、コンペティションが一つの大きな枠で組まれているが、実はこれは世界的に見て珍しい運営方法で、通常は、メインとしてのコンペティションのほか、学生作品、CF、TVアニメ、そして長編など、いくつか部門別のコンペティションがある。
 新千歳でも、メインの「インターナショナルコンペティション」とは別に日本作品を集めた「日本コンペティション」、「ミュージックアニメーションコンペティション」があり、それぞれ受賞作を選出する。そして「インターナショナル」のなかでもファミリー向け作品を集めた枠も設けられている。
 私は、「ファミリー」のみ二日酔いで寝坊したおかげで見逃したのだが、それ以外はすべて見て、上述の第一印象を抱いた。つまり、技術的には既存のありふれたものであってもその技術の使い方・見せ方に独創性がある作品、内容(ストーリーなどを含めて)の構成が先進的で「見る者を惑わせる」ことを恐れない作品などが目白押しで、結果として、キャラクター、デザイン、ストーリーなど、アニメーションという表現の「上に乗っかっている」要素を超えて、アニメーションそのものの価値や未来を追求しようとする作品が揃っているのである。
 そのため、たとえば広島ならコンペに残ることが考えにくい「稚拙に見える」作品が新千歳では堂々と入り、それが映画祭としての主張を鮮やかに彩っている。
 もっとも、グランプリは『Dolls Don't Cry』というカナダの人形アニメーションで、完成度はきわめて高いが、同時にオーソドックスな仕上がりの作品なので、受賞は逆に意外に感じたが、受賞そのものには異論はない。
 もう一つ、自治体が主催する広島とは違って、コンペでの企業賞をたくさん作っていることも非常に好ましく思った。サッポロビール北海道銀行よつ葉乳業など地元企業名を冠した賞がたくさんあると、それだけ受賞作が増えるし、授賞式も華やかになる。

 こうした新千歳の「広島とは違う」価値観は、開催4年目にして世界中に伝播したようで、今年についていえば、コンペへの出品作品総数は2037作品を数えた。これは広島など他の著名な国際アニメーション映画祭と比較しても遜色ない。
 そして、コンペ以外のプログラムでは、私が「アニメーションの華」と考えている長編、それも商業アニメ系の長編の上映が多いことも新千歳の特色だ。この映画祭を仕切るフェスティバル・ディレクターが高く評価する湯浅政明監督の特集は当然のように組まれ、また『銀河英雄伝説 わが征くは星の大海』(1988)など、どういう理由で上映することになったのかをメインスタッフの一人に訊くと、「私の趣味!」という答えが返ってきた。
 
 課題を挙げるとすれば、観客をどれだけ集めるか、そして新千歳ならではの発信力をどう高めるかにつきる。「これだけいいものを揃えている、やっているのだから、見てもらえればきっと理解される」という考えが新千歳の運営側にあるとすれば、広島と同じ課題にぶちあたってしまうだろう。それはつまり、アニメファン、それも短編・アート系アニメの界隈に熱気がとどまってしまうということだ。
 初回から今回まで、どの程度観客が増え、話題が広がっているかを私は知らないので、いい加減なことは書けないが、映画祭の発信力については、間違いなく広島とは異なったもの、刺激的なものを感じた。
 運営側は、この独創的な発信力をどう使うか、そして新千歳で開催し(地の特性と利点)、それも広島に匹敵する規模の国際アニメーション映画祭(存在感)で、何をどう一般化できるかという点を冷静に突き詰め、分析し、その結果には謙虚に向き合って、臨機応変に運営することで、この未来志向型の国際アニメーション映画祭を成長させてほしいと強く感じた。