「旅と鉄道」 アニメの聖地巡礼について思うこと

●「旅と鉄道」2017年5月号 「鉄道×アニメ 聖地巡礼
●「旅と鉄道」2017年12月増刊号 「アニメと鉄道」
 出版社:山と渓谷社
 刊行年:2017年
 定 価:1,000円(いずれとも)
 

  
 アニメの舞台に絡む、いわゆる「聖地巡礼」が盛んだ。わかる人にはわかる、マニアの密やかな楽しみだった「聖地」がマスコミに開放されたのが、埼玉県鷲宮町を舞台にしたテレビアニメ『らき☆すた』(2007年)あたりをきっかけだと考えても、もう10年以上になる。やがてそれが学術研究の題材になったり、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『君の名は。』『この世界の片隅に』、そして『ユーリ!!! on ICE』まで、新たな作品がさらに聖地巡礼を盛り上げ、多くのメディアがその現象を取り上げている。
 それを象徴する一つが、ここで挙げた鉄道専門誌の特集だ。マニアックということでいえば、鉄道とアニメには古くから親和性がありそうだが、1年で2度も特集を組み、その内容も十分に濃いものであるのは、やはり感慨深い。
 などと書きつつ、実は私も相当に年季の入った鉄オタで、昔は撮り鉄、今はもっぱら乗り鉄、シーズンには年甲斐もなく青春18きっぷを買っている。
 夜汽車が事実上なくなり、鈍行列車も寸断された今は、昔に比べるとだいぶ鉄道旅行の楽しみは減殺されたが、それはそれで郷愁が増し、またどう変化しようとも、こうして「アニメと鉄道」というキーワードで新たなファンを増やしているのは、私自身がアニメ研究などに身を置いていることも相まって、素直に嬉しいものである。
 ただ、ここで挙げた雑誌も含めて、不満が一つある。それは、掲載されている文章だ。
 フルカラーの誌面なのだから仕方ないとも言えるが、満載された写真や旅行のための情報に比べて、掲載されている文章は読み応えがいまひとつで、またマニアでなければ理解し得ない書きぶりも少なくない。なにより、掲載されている写真と一体になって読まないと面白みに欠ける文章になっている。読み応えがあったのは、5月号に掲載された江上英樹氏の「すずさんが乗った鉄道を探して」くらいかもしれない。
 私の持論は、文章はあくまで文章であって、併載の写真がたとえ1枚もなくても、文章「だけ」で読み応えのあるものになっているかどうか、が重要なのである。
 加えて、アニメの聖地巡礼について書くにあたって、その聖地(作品の舞台)そのものの訪問記やガイドブックにとどまっているのも物足りない。
 聖地巡礼は、あくまで「旅」である。自分の住まいの最寄り駅から列車に乗り、移動し、車窓が流れ、腹がへったら駅弁や立ち食いそばを楽しみ、やがて目的地に着く。そこはアニメの聖地ではあるけれど、街には歴史があり、今もさまざまな人が生き、日常を過ごし、そして夜がきて朝を迎える。ましてや、聖地巡礼について書かれたもので、途中下車の楽しみを書けているものが、どれだけあるだろうか。
 そうした聖地への旅の「空気」それ自体を感じ取り、それを文章で書き、結果として、アニメや鉄道に興味のない読者にまで通じるような文章でなければならないのではないか。そうでないと、アニメや聖地巡礼や鉄道も、いつまでたってもマニアから開放されない。
 別に開放されなくてもいい、と考える人が多いのかもしれないし、アニメも鉄道も以前に比べればだいぶ開放されてきたとは思う。出版物が売れない今、どういう誌面にしなければならないのかという事情も想像できる。
 それでも、アニメや鉄道の旅には限りない魅力があると私は強く信じているので、それを題材にした文章やメディアには、もっと役割があると思うのである。