「現代劇のサスペンス」という、海外ではおよそ長編アニメーションの素材にはなり得ない素材を駆使し、テレビアニメ等での「下積み」をほとんど経ることなくいきなり長編アニメを監督し、以後も主に長編監督として仕事をこなす。そして、迷宮的なストーリーと赤を基調とした画面デザインなど、どこをとっても、今 敏監督は、現代日本アニメのパラダイムを解き明かすための重要な存在だ。
しかも、ほとんど常に女性キャラクターが主役として登場し、精神的、心理的な描写が複雑なところから、臨床心理学、ジェンダー論といった分野からのアプローチも見られ、「研究対象」としても、いま最もホットな監督ともいえよう。
そんな、今ワールドへの導入部となるのが、以下の2つの文献だ。
●「KON’S TONE」
著 者: 今 敏
出版社: 晶文社
刊行年: 2002年
定 価: 1800円
「千年女優」への道、というサブタイトルがつけられた本書、今監督のホームページ「KON’S TONE」に自ら執筆した、長編第1作『パーフェクトブルー』制作記録が、主な内容である。そもそもはOVA(オリジナルビデオアニメ)作品として企画された本作が、劇場用長編として拡大していく様が詳細に綴られ、同時に、監督という立場からの制作メモとしても読めるため、非常に面白い。
●「プラスマッドハウス① 今 敏」
キネ旬ムック
出版社: キネマ旬報社
刊行年: 2007年
定 価: 1600円
『パプリカ』(2006)公開半年後に刊行されたムック。
今監督へのインタビューほか、主要作品解説、評論、脚本や音楽を担当したスタッフへのインタビューなど、今監督の作品世界をさまざまな角度からアプローチした内容である。