『河童のクゥ』と原恵一

 
 昨年、多くのファンを感動させた長編アニメ『河童のクゥと夏休み』は、主人公・康一と河童のクゥとの友情にはじまり、弱いものへのいたわり、家族、地域社会の在りよう、情報化社会の暴力性、環境問題、そして失われつつある文化への憧憬に至るまで、見る人ごとに作品の捉え方が変わってくるという意味で、さまざまに言われる「日本アニメの典型」を、非常にわかりやすい形で見せてくれた傑作である。
 そして、たとえばこの年お母さんと一緒にこの映画を見に来た子ども達が、中学生になったとき、高校生になったとき、成人したとき、そして家族をもったときに再びこの映画を見たなら、全く印象が違って見えるに違いない。
 まさに、「年1本はこんなアニメが見たい!」と思わせるものがあった。
 
 そんな『河童のクゥ』の原恵一監督は、『クレヨンしんちゃん』映画版で名を馳せはしたが、やはりこの『河童のクゥ』で、一気に「次回作が見たくなる監督」になったと言えるのではないだろうか。
 もっとも、本作では構想段階から完成まで5年を要しており、次回作までにまた5年待たされるとしたら、ちょっと困ったものだが、まずは次の2つの文献で、じっくりと原恵一監督の本質を探ってみたい。
 
 
 ●「アニメーション監督 原恵一
  編 者: 原恵一浜野保樹
  出版社: 晶文社
  刊行年: 2005年
  定 価: 2300円
 
 
 
 『河童のクゥ』完成前の出版だが、原恵一への生い立ちから始まる長大なインタビューを中心として、関係者へのインタビューや海外における「クレヨンしんちゃん」事情まで、盛りだくさんの内容になっている。
  
 
 ●「原恵一と「河童」の長い旅」
  出版社: 角川書店
  刊行年: 2007年
  定 価: 2600円
 
 
 
 『河童のクゥ』公開に合わせて刊行された、「公式ガイドブック」と銘打たれたムック。原恵一へのインタビューを中心にすえながら、ほぼ全ページカラーで、絵コンテ、レイアウト、ラフスケッチなどの基礎資料が多く盛り込まれ、参考になる。ロケーションハンティングの写真なども収録され、実在の景観と作品とを比べられるのも面白い。