岡本忠成作品集

 
 岡本忠成(おかもと・ただなり、1932〜1990)というアニメーション作家の名を知らなくとも、NHKみんなのうた「メトロポリタン・ミュージアム」(1984)と言えば、「ああ、あの可愛い人形アニメーション!」と思い出す人は少なくないだろう。
 それほどまでにこの作品は印象的で、現在でも、「みんなのうた」の好きな作品の上位にあがるほど人気がある。
 今回紹介するムックは、「メトロポリタン」の作者であり、58歳の若さで急逝した岡本忠成の業績の全貌がまとめられた、唯一のムックである。
 
 ●「岡本忠成作品集」
  著 者: 杉山潔
  出版社: 角川書店
  刊行年: 1994年
  定 価: 3800円
 
 
 
 岡本の作品歴の最大の特徴は、その技法の多彩さである。
 平面(セル、水彩、マーカーなど)、半立体(毛糸、板など)、立体(人形)まで、アニメーションのあらゆる素材と技法を使い分け、「原作の雰囲気を伝えるために最良の素材と技法を選択する」姿勢が貫かれている。これほど多彩な「使い分け」をするアニメーション作家は、世界を見渡してみてもほとんどいない。
 「メトロポリタン・ミュージアム」が印象的なのは、岡本が「最良の素材と技法を選択した」結果だったのである。
 
 1970〜80年頃にかけて、7歳年上の人形アニメーション作家・川本喜八郎と双璧とされ、2人で主催した上映会「川本+岡本パペット・アニメーショウ」も継続的に開催(計6回)していたが、あまりにも早く他界したため、現在の人形アニメーションのブームに至れば約束されていた成功にも浴することはなかった。
 作品も、LDとVHSで発売されたが、全集ではなく、また現在入手困難である。せめて、DVDが発売されないものか。
 
 それよりも、この唯一のムックをきっかけとして、彼の仕事の全貌が再評価され、作品集が発売されることを強く望みたい。
 本ムックは、古書市場でもやや入手困難だが、まんだらけのような専門店では時々みかける。ほぼ全ページカラーで、作品図版豊富、関係者のインタビューも収録され資料性が高いため、ぜひ入手したい。