押井守

 
 押井守の最新作『スカイ・クロラ』は、残念ながらヴェネツィアでの受賞を逃したが、北野武宮崎駿らの作品とともに日本映画3本がコンペティション部門にエントリーされたというのは、それだけでも壮観だった。
 それにしても、この押井守という監督も、なんやかんや言われながら、長編をコンスタントに発表できている、世界的に見ても稀有な存在である。それに、宮崎駿のことを「本人が作りたければどんな作品でも作れる監督になった」と評するむきがあるが、その意味で言えば、『立喰師列伝』のようなケッタイな作品まで制作・公開できる押井も相当なものだ。もっとも、『スカイ・クロラ』は、けっこう楽しめたのだが、個人的には、押井の作品履歴の中では、さほど印象に残るものにはなりそうにない。
 
 さて、押井守関連の文献も数多い。それは、押井が(インタビューなどで)お喋りであり、自ら筆をとって雑誌等に寄稿することも多いからだ。抽象的で虚無感の漂う、また饒舌体の台詞回しを多用する、そして映画キャメラの特性に忠実すぎる画面構成を織り込むなど、多彩な押井世界を読み解くには都合がよい。
 そんな中でも、まずは3冊、紹介したい。
  
 ●「押井守全仕事 増補改訂版」(キネ旬ムック)
  出版社: キネマ旬報社
  刊行年: 2001年
  定 価: 1800円
 
 
 
 これは、1996年に刊行された「全仕事」の増補改訂版。押井守の直接のコンテンツ(本人へのインタビューや対談など)は比較的少なく、関係者や批評家の寄稿が多くなっているところは良し悪しなのだが、巻末の作品リストを含め、押井の仕事をパノラマするための基本図書。
 
 ●「これが僕の回答である。1995−2004」
  著 者: 押井守
  出版社: インフォバーン
  刊行年: 2004年
  定 価: 1700円
 
 
 
 押井が雑誌「ワイアード」と「サイゾー」に連載したコラムを中心として1冊にまとめた本だが、彼自身の筆致で、彼が関わった多くの作品について、その意図や背景が綴られているほか、制作システム、映画監督の仕事、日本人の感性など、彼のものの見方や考え方がふんだんに盛り込まれ、読み物としても非常に面白い。
 
 ●「天使のたまご 絵コンテ集」
  著 者: 押井守
  出版社: 徳間書店
  刊行年: 1986年
  定 価: 680円
 
 
 
 押井世界独特の抽象性、虚無感が漂い、その一方でシャープな映像が構築されているという意味で、私はやはり『天使のたまご』が、現在のところ、最も好きな作品だ。
 しかし、舞台からキャラクターに至るまで、あらゆるプロフィールが明らかにされない中で内容が進んでいくという、「難解さ」も第一級なので、この「絵コンテ集」は、押井が何を考えて作ったのかを解明する貴重な資料だ。
 
 このほか、雑誌「ユリイカ」(2004年4月号)での特集の中の記事や、宮崎駿の「『風の谷のナウシカ』絵コンテ集」(徳間書店アニメージュ文庫版)で発表された随筆「漫画映画について」など、押井研究には重要な記事がいくつもある。これらは、機会をみて、ここでもアップしていきたい。
 
 「全仕事」と「これが僕の・・・」は、古書市場を含めて入手しやすいが、「天使のたまご 絵コンテ集」は、数年前に再版されたものも含めて、やや入手困難。