宮崎駿研究

 
 もはや宮崎駿研究は、多くの専門家やマニアがいるし、私の出番はないだろうが、今、宮崎作品がらみの仕事を進めていることもあるので、古典的文献を中心に、いくつか挙げてみたい。
 
 ●「宮崎駿イメージボード集」
  著 者: 宮崎駿
  出版社: 講談社
  刊行年: 1983年
  定 価: 1300円
 
 
 
 「少年マガジン別冊」というムックとして刊行されたものだが、「もののけ姫」原型の絵物語の初出本であり、後の宮崎作品のイメージに直結するスケッチが多く収録されたフルカラー画集。
 原典主義に則るとすれば、本書から得られる情報は非常に多いと思われる。
 古書のみでの流通だが、まんだらけではたまに見かける。しかし、初版・美本であれば1万円を超える。コレクターアイテムとして求めるのでなければ、多少傷みのあるものを数千円程度で買い求めるほうが得策。
 
 
 ●「天空の城ラピュタ絵コンテ集」
  著 者: 宮崎駿
  出版社: 徳間書店
  刊行年: 1986年
  定 価: 2000円
 
 
 
 宮崎の絵コンテは書き込みが多く、作品研究には不可欠の資料だが、現在、「スタジオジブリ絵コンテ全集」として刊行されており、これらは普通に入手できる。
 ここで紹介する「ラピュタ」絵コンテ集の86年初版本の巻末には、東映動画(当時)の演出家・佐藤順一と宮崎との対談からおこした宮崎の談話録「若き演出家との対話」が収録されており、これが極めて重要。絵コンテ・演出にはじまり、レイアウト、撮影、編集、音楽、アフレコ、スタッフ編成に至るまで、宮崎の作品制作方法論が凝縮されている。
 この談話録は、宮崎の著作集「出発点」(徳間書店刊、1996年)にも再録されておらず、私が知る限り、この「絵コンテ集」のみの収録と思われる。(どこかに再録されていれば教えてください)
 
 
 ●「アニペケ別冊 対談特集」
  編 者: 東海アニメーションサークル
  出 版: 同上
  刊行年: 1991年
  同人誌
 
 
 
 老舗のアニメーション研究サークル・東海アニメーションサークル(TAC)が主催した複数のアニメーション作家講演会の講演録集で、川本喜八郎森康二森やすじ)、月岡貞夫、持永只仁らの講演・対談などが収録されていて、どれも貴重だが、ここに、宮崎の講演録も収録されている。
 主に宮崎の幼少時代の空襲体験、作品制作の土台となる考え方が語られ、その作家性に迫ることができる、非常に興味深い内容になっている。
 かなり前に刊行された同人誌であるため、入手は困難だが(あるいはTACにまだ在庫があるか!?)、宮崎の講演録そのものは、キネ旬の臨時増刊「宮崎駿高畑勲スタジオジブリのアニメーションたち」(1995年刊)に再録されている。
 
 
 ●「講座アニメーション3 イメージの設計」
  編 者: 池田宏(講座アニメーション編集委員会
  出版社: 美術出版社
  刊行年: 1986年
  定 価: 4900円
 
 
 
 けっこう大掛かりに出版されたにもかかわらず、シリーズ途中で刊行が途絶えたことが影響しているのか、現在完全に埋もれてしまっている文献の一つ。
 タイトルからもわかるとおり、かの美術出版社をして、本来なら全6巻のシリーズとして刊行される予定だったアニメーション専門書だが、
  第2巻 「世界の作家たち」
  第3巻 「イメージの設計」
  第4巻 「動きをつくる」
  第6巻 「新しいアニメーション」
 の4巻が出たところで刊行が途絶えてしまった。
 それはともかく、この第3巻には、宮崎の著作「私にとってのシナリオ」が収録されている。「パンダコパンダ」「未来少年コナン」「ルパン三世カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」を具体例にとり、宮崎自ら関わった作品の設計技法を論じた極めて貴重な内容で、決して長い著作ではないが、宮崎研究には必須の著作の一つだろう。
 このシリーズ既刊4巻はもちろん古書のみの流通だが、4巻揃いで古書店で見かけた記憶はなく、入手は非常に困難。
 幸い、宮崎の「私にとってのシナリオ」は、著作集「出発点」に再録されている。