富野由悠季全仕事

 
 ●「富野由悠季全仕事」
  監 修: 富野由悠季
  出版社: キネマ旬報社
  刊行年: 1999年
  定 価: 2800円
 
 
 
 富野由悠季監督はアニメ情報誌や映画雑誌等で膨大なインタビューやコメントを出している。作品作家研究において、そのすべてに眼を通す必要があるかどうかは、それぞれの研究者個人の判断に委ねたいが(富野を研究対象にしたことがない私は、いまだかつてそれをやっていない)、まずは、このムックが一つの頂点といってよいだろう。
 富野の生い立ちから現在に至るまでの長大なインタビューを中心として、富野作品に関わった多くのクリエイターの発言が掲載され、かつ、巻末にはお馴染みの原口正宏による詳細な作品データが掲載されている。
  
 私が本書を参照したのは、虫プロ研究において、関連データを採取するためである。
 その意味では、以下の自伝も貴重な内容だった。
 
 ●「だから僕は・・・」
  著 者: 富野喜幸
  出版社: 徳間書店
  刊行年: 1981年
  定 価: 980円
 
 
 
 これは1981年初版だが、後にアニメージュ文庫や角川スニーカー文庫から再販されており、これらは増補版になっている。
 本書は「全仕事」に比べて、より個人的・内面的事項も書かれ、筆致もほとんど独白調なのだが、虫プロでの仕事の中身についてはかなり具体的に書かれてある。
 また、例えば有名な『海のトリトン』制作エピソードなど、「全仕事」にも本書にも載っているので、読み比べると面白い。
 
 私が知る限り、大学等のアニメーション研究の世界で、富野由悠季の系譜、業績、そして評価を、アニメ史全般から論じた成果は、まだほとんど出ていないと思う。(出ていたら教えてください。読みたいです)
 にも関わらず、研究者が「日本のアニメ研究はもっぱら『鉄腕アトム』以降に集中している」などと書いているのを眼にすることがあるので、その認識不足にガッカリするのだが、日本のアニメの系譜から考えると、宮崎駿押井守らよりも、はるかに重要な監督であり、今後の研究の展開に期待したい。