2つの立場のクロスオーバー:『アニメ制作者たちの方法』

●『アニメ制作者たちの方法』
 編 者:高瀬康司
 出版社:フィルムアート社
 刊 行:2019年2月
 定 価:1,944円
 https://www.amazon.co.jp/dp/4845918080/ 
 
 ここ数年、アニメ研究のガイドブックというか指南書というか、そんなテーマの本が相次いで刊行されている。本書もそうした流れの一冊だが、類書とは違って多くの制作者たちが対談や談話で登場し、研究者による筆致と共存させているところがユニークである。
 私は「キネマ旬報」6月上旬特別号で本書の書評を発表したが、そのタイトルは「制作者と研究者のクロスオーバー」になった。
 かつて日本でのアニメ研究は評論家らによる座学だった。80年代のアニメブーム以降、アニメの社会的な位置づけが変わり、元来、もの言わぬ制作者たちが「発言する制作者(たとえば富野由悠季宮崎駿ら)」になった。さらにデジタルの時代に入って独自性を増した日本のアニメを的確に捉えるために「研究する制作者」が出現してきたのが現在、という趣旨の書評で、興味のある方は、この書評も併せて読んでいただければと思う。
 書評でも触れたことだが、本書には発展的な意味での課題もある。特に、多くの識者らによる「お勧めアニメ」がじゃんじゃん列記されているのは、こういうテーマ本の定番ではあるけれど、なんとかならないかと思う。先達が若者にむかって「座して知識と経験を語る」この種の方法以外の方法を模索し提示するのが、本書や類書が求められる役割である。
 もはや「アニメーション」は「アニメーション」だけでは成り立たず、扱えない、アニメーションの地場から一歩引いたところでのコンセプトワークを重視することこそ、アニメーションの本来像と未来性に迫るのだというあたりが、本書に通低する意識であり、これに従って、目次をさらに洗練させることができるはずだ。
 そう考えると、アニメ研究本の編纂は難しいと、あらためて思った。みんなファンなので、思い入れが強く、アニメーションという最新のテクノロジーを理解しているようで、意外に旧来の価値観から抜け出しきれないのだ。
 もちろん旧来からの価値観も現存して意味あるものであり、そこから抜け出さなくてもいいのだけれど、もしも抜け出すのなら、そして抜け出したいのなら、それに徹するべきである。