東映動画史の基礎資料

 
 日本の大手スタジオでも、東映動画(現東映アニメーション)関連の文献は、かなり多い。
 先に紹介した「魔女っ子大全集」も、東映動画史の中に入ってくるものだし、宮崎駿大塚康生高畑勲東映動画OBの著作なども、範疇として扱えられよう。
 しかし、まずは総論的なスタジオ史を捉えようという場合、ここで紹介する2冊は、ぜひ眼を通すべきである。
 
 ●「東映十年史」
  編 者: 東映十年史編纂委員会
  出版社: 東映
  刊行年: 1962年
 
 
 
 非売品の、いわゆる社史だが、わずか10年という浅い歴史しか有していない段階で刊行されたにも関わらず、A4判567ページという大部の本になった。
 内容は、まず「本史」として、東映本社の歩みがまとめられており、「傍系史」として、東映化学工業などの関連会社のほか、プロ野球球団・東映フライヤーズ(現北海道日本ハムファイターズ)、日本教育テレビ(現テレビ朝日)などが盛り込まれている。
 このうち、東映動画については、本史の中の「動画」という章に収められており、日本の戦前からのアニメーション史から、東映動画設立経緯、そして制作された作品(短編『こねこのらくがき』や長編『白蛇伝』など)の詳細な制作データが列記されている。そのデータの細かさは尋常ではなく、例えば『白蛇伝』は、「作画枚数、214,154枚」「製作期間、昭和31年4月2日〜昭和33年9月3日」などとなっている。
 なぜ、新興の映画会社であった東映が、アニメーションに参入したのかについての解説も充実している。
 ただ、東映動画関係のページ数はわずか16ページで、まだ歴史が浅い段階でまとめられたことが表れている。
 
 古い文献で、かつ非売品の社史なのだが、どういうわけか、映画会社の社史の中では、古書店などで比較的見かける機会が多い。「日本の古本屋」でも、価格は1万円前後ながら、常時見つけることができるだろう。
 もちろん、図書館に行けば閲覧できるので、上記のとおり東映動画関連のページが少ないこともあり、必要なところをコピーするだけでもよいと思うが、できれば手元に置いて、関連する東映本社や、東映動画と関連が深い教育映画部門の内容、さらには日本教育テレビ設立の経緯などにも眼を通して、映像史全般の情報を把握しておきたい。
 
 
 ●「東映アニメーション50年史」
  編 者: 50周年実行委員会ほか
  出版社: 東映アニメーション
  刊行年: 2006年
 
 
 
 一昨年夏、創立50周年を迎えた東映アニメーションが、それを記念して刊行した、正に東映動画全史といえる社史である。ちなみに、私も少し執筆に協力した。
 この10年前には「40年史」も刊行しているのだが、内容は「50年史」がはるかに充実している。特に、巻末の作品リストは網羅的で、劇場作品やテレビ作品はもちろん、テレビスペシャル作品、ビデオ作品、短編、そしてあまり表には出てこない海外合作や、イベント・PR用作品までが収録されている。(ただし、作品ごとのスタッフ名はほとんど盛り込まれてない)
 ほぼ全ページカラーで、作品リストのページも、海外合作やPR作品を除き、全作品について(小さいもの1点ずつながら)作品画像が掲載されている点はありがたい。
 
 まだ刊行まもないので、古書店にもほとんど流通してこないと思われ、入手は極めて困難だが、国会図書館杉並アニメーションミュージアムを含め、主要図書館には収蔵されているようだ。