編 者: 「草月アートセンターの記録」刊行委員会
出版社: フィルムアート社
刊行年: 2002年
定 価: 7500円
大正モダニズム、昭和モダニズムといった言われ方をすることからもわかるとおり、日本ではかつて何度か、いわゆる前衛芸術運動が盛んな時期があった。
特に、1958年から71年にかけて活動した草月アートセンターは、絵画、デザイン、音楽、舞台芸術、文学、映画に至るまで、あらゆる表現様式と、それを牽引する若いアーティストが集い、競って作品を発表していた、前衛芸術の震源地ともいうべき存在だった。
アニメーション史にとっては、漫画家の久里洋二、イラストレーターの柳原良平、真鍋博の3人が立ち上げ、センターで上映会を開催した「アニメーション3人の会」が重要で、当時、テレビアニメを主体とする商業アニメーションが主流となる中で、アニメーション本来の多様な表現手法を模索することを提唱し、これに応えたクリエイターを集めることになった。
また、単に自作を発表するだけではなく、海外の多くの最新アートを紹介したことも重要である。
本書は、そうした草月の活動の全記録が盛り込まれている。詳細な年譜のほか、映画祭やコンサートでの発表作品目録、機関誌「SACジャーナル」の総目次もあり、資料性は高い。
そして、勅使河原宏、谷川俊太郎、和田誠、横尾忠則、湯浅譲二、高橋悠治、赤瀬川原平など、当時活動に参加していた50人以上のクリエイターが回想録を寄せている。もちろん久里洋二や、「3人の会」に触発されてアニメーションに取り組んだ古川タクらの名前もある。惜しくも96年に他界した武満徹や、小野洋子(オノ・ヨーコ)らの活動が垣間見えるのも嬉しい。
価格は高価だが、当時の前衛芸術全般の動きを捕捉しつつアニメーションの在りようを考察するという意味で、ぜひ入手しておきたい。
草月アートセンターの活動は、参加したクリエイターの内紛なども伝えられており、必ずしも手放しで評価されているわけではない。活動の終焉からまだ時間もあまり経っておらず、総括しにくい状況にあるとも言えよう。
それでも、そこで実践された、出会いと衝突、大胆な実験の数々は、あらゆる表現の垣根を越え、現代のテクスチャーを紡ぎだしていったことは確かである。
本書には、そうした60年代の熱気が克明に記録され、その時代を知らない者にまで、「創作すること」の意味を今なお問い続けている。