「アニメの世界」 「アニメーションの宝箱」

 
 今回は、新旧のレビュー集を紹介したい。
 
●「アニメの世界」
 著 者: おかだえみこ鈴木伸一高畑勲宮崎駿
 出版社: 新潮社
 刊行年: 1988年
 
 
 
 ちょうど20年前に出版された本書は、国内外のアニメーションの作品とキャラクター紹介をメインとしているため、「レビュー集」として紹介するが、アニメーションのさまざまな手法、国内外のアニメーション略史も盛り込まれるという、盛りだくさんの「アニメーション入門書」とでも言うべき体裁になっている。
 特に面白いのは、アニメーター・鈴木伸一による、アニメーション制作工程の解説。長編『火垂るの墓』を例にしながら、演出の具体的な仕事、作画のうち原画と動画の役割の違い、背景画の制作、仕上(彩色)の方法、そして撮影、編集、音響制作、ダビングに至るまで、アニメ制作工程がイラストつきで非常にわかりやすく解説されている。この章のためだけに本書を買っても損はない。
 高畑勲宮崎駿は、それぞれ自身のアニメーション入門のきっかけとなったエピソードを、談話形式で寄稿しているが、現在2人ともメジャーになりすぎたために、いま読んでも、特に目新しい内容はない。
 
 
●「アニメーションの宝箱」
 著 者: 五味洋子
 出版社: ふゅーじょんぷろだくと
 刊行年: 2004年
 
 
 
 国内外のさまざまなアニメーションの、文字通りのレビュー集。
 こうした本は、たいてい商業アニメに偏っていたり、逆にほとんど誰も知らないようなアート系作品に偏っていたりして、買うか買うべきか迷うことも少なくないのだが、本書の場合は、その心配はない。
 国内外、新旧、そしてメジャーな商業アニメから歴史的なアート系作品まで、よくぞここまでバランスよく盛り込んだと思えるものである。
 もちろん、かつてアニドウに所属し、どちらかというと東映動画系の作品に傾倒している著者なので、選択された作品や、紹介する文章の筆致には、その個性が色濃く表れているし、和田誠の「殺人」や古川タクの「驚き盤」など、もはや本書が想定している若い読者に紹介する必要性がほとんどない作品まで入っているのは、致し方ないかもしれない。
 ただ、一般の読者には、そうした著者の個性はほとんど気づかれないほどに、極めてバランスよく紹介されているので、商業アニメから少し離れて、昔の名作や海外アート系作品に入門したい人には、ぜひお薦めしたい。
 
 どちらの本も、アニメーションを本格的に研究しようするために必要となる本とは少し違うが、約20年の時間を隔てた中での作品の捉え方がどう変わってきているのかということを再確認することができ、これからアニメーションを論じていこうとする人たちには、一読をお薦めしたい2冊である。
 「アニメーションの宝箱」は普通に購入可能だが、「アニメの世界」はまんだらけでも稀に見かける程度で、入手は困難。都道府県立の図書館であれば、ほぼ収蔵されていると思われ、東京都でいうと、中央図書館はもとより、区立図書館でもたいてい収蔵されているようだ。