「新海節」の再認識 −−『秒速5センチメートル』爆音上映

 11月2日から行われている第5回新千歳空港国際アニメーション映画祭、順調に日程を消化している。
 今回からコンペティション部門がさらに充実し、従来からのインターナショナルコンペティション、日本コンペティション、ミュージックアニメーションコンペティションに加え、学生コンペティション、長編コンペティションが加わった。
 これで伝統の広島国際アニメーションフェスティバルとの差別化がますます図られているわけだが、まだ4日間のうち2日間を見終わったところなので、受賞作を初めとする総括は、また後日書くとして、コンペティション部門のプログラム以外でいうと、昨日の2日目に注目のプログラムが集まっていた点に触れておきたい。
 
 2日目には、今年の話題作の一つ、ウェス・アンダーソン監督の長編『犬ヶ島』と、新海誠監督の『秒速5センチメートル』の2本の爆音上映があり、私は特に『秒速』の爆音上映を楽しみにしていた。
 爆音上映というのは、音楽ライブ用の音響設備を使って、通常の映画上映よりもはるかに大音響で映画を楽しむものである。音は空気振動であり、その振動=音をより厚みと重みをもって全身で体感できる、とでも言えよう。
 ただ、誤解しないでいただきたいのは、爆音といっても、耳をつんざくような大音響というわけではなく、したがって、単にサウンドトラックのボリュームを上げて上映しているのではない。映画1本ごとに「爆音」の設定は変わり、そのあたりの技術は相当に繊細なようなのだが、だからこそ、私が新海監督の最高傑作と考える『秒速』の爆音上映に注目したのである。
 
 私は今まで新海誠作品について、著作で何度も『秒速』を「新海節」の典型と書いてきた。「実写以上」といえる風景描写、光と色彩の演出、独特のリズム感のカメラワーク、語りかけるような音楽、そしてキャラクターの心理を演技やセリフではなく長いモノローグで表現するなど、これらが『秒速』で完成され、『君の名は。』よりも印象深い。
 そしてこの「語りかけるような音楽」、これが爆音上映でどうなるか。
 結論を書けば、「語りかけるような」が損なわれたわけではないが、まったく別の音楽に聞こえた。場面によっては、少し濁った音色に感じたし、あくまで比喩で書けば、オリジナルはベーゼンドルファーのピアノで繊細に弾いていたが、爆音ではベヒシュタインのピアノで勢いよく弾いているように聞こえた、というところだろうか。
 批判をしているのではない。私自身、一方の『犬ヶ島』での爆音でも期待通りの点と意外な点とが混在したことと合わせて、爆音上映の特色をあらためて認識し、新海作品の知られざる一面を知れたというもので、ようは勉強になったと感じたからである。
 
 その新海誠の仕事がもたらした一つの発展形と言えようか、コミックス・ウェーブ・フィルムが中国のリ・ハオリン監督との共同で手がけた長編『詩季織々 −しきおりおり−』の上映が、『秒速』爆音上映のすぐ後で組まれ、それを見ることができたのも大変有意義だった。
 『秒速』と同じく3本のエピソードによるアンソロジーで、それぞれ監督は異なるが、私は第3話の「上海恋」が抜群によかった。
 
 爆音上映と『詩季織々』上映とで、「新海節」を再認識でき、新海誠作品が世界アニメーション史で語られるための次のステップに移った、そんな映画祭第2日目だった。
 
 第5回新千歳空港国際アニメーション映画祭:
  http://airport-anifes.jp/