ひろしまアニメーションシーズン2024に参加して(前編)

 旧・広島国際アニメーションフェスティバルからリニュアルされた「ひろしまアニメーションシーズン」 8月14日から18日まで、5日間にわたって開催された。今回で2回目となる。前回、第1回はコロナ禍の2022年開催で、移動制限が厳しく、海外からの来場者がほとんどいなかった。私自身も後半2日間しか参加できなかった。
 このため、今回が実質的に初めてアニメーションシーズン(アニシズ)の全貌に触れることができたし、また主催者も「やりたかったことを全部やりたい」と考えての開催になったと思われる。
 今回はアニシズについて、私は書きたいことがいっぱいある。長くなりそうなので、前編、後編に分けて書いていく。

1)はじめに
 国際映画祭では、制作者が新作を応募してグランプリを競うコンペティション部門がメインプログラムで、それ以外に特集上映とかシンポジウムなど、さまざまな関連イベントが組まれる。
 アニシズでもそれは同じだが、すでに述べたように前回はコロナ禍で、交流系のイベントがほとんどできなかった。その反動で、今回は非常に多くの特別プログラム(作家特集、トーク、シンポジウムなど)が組まれた。
 しかし、私はいつも新作のコンペティションを中心に参加するので、今回もそのようにして、コンペ作品はほぼすべて鑑賞した。
 このため、ここで書くアニシズの印象は、コンペを中心としたものになる。
 
2)短編系作品のコンペティションの変化
 アニメーション映画祭では、出品された作品をいくつかのカテゴリにわけて、そのカテゴリごとに授賞、さらに全体からグランプリを1作、というのが通例である。たとえば、短編、長編、テレビ作品、コマーシャル作品、学生作品、といったカテゴリ区分である。
 旧広島フェスでは短編(上映時間30分以内)のみが対象で、カテゴリを設けず一緒くたにして賞を競っていたのが特色だった。
 そして、2022年の第1回アニシズは、カテゴリが斬新で、戸惑いを覚えるほどのものだった。
 具体的には、「環太平洋・アジアコンペティション」と「ワールドコンペティション」とに分け、「ワールド」ではさらに「寓話の現在」「社会への眼差し」「物語の冒険」「光の詩」「こどもたちのために」という名称の5つのカテゴリに分けて審査された。大いに驚いたのは、長編と短編とを分けず、この5つのカテゴリに振り分けた点である。
 これを毎回続けるのかなあと思っていたら、今回の第2回では、カテゴリがかなり変わった。
 まず、やはり「長編」と「短編」とを分けた。それはそうだろう。
 次に、短編の5つのカテゴリから「こどもたちのために」「物語の冒険」が消え、代わりに「虚構世界」が新設されて、つごう4つに整理された。
 また、「環太平洋・アジアコンペティション」が「環太平洋アジアユースコンペティション」に代わり、出品者対象地域は同じだが学生作品に限られることになった。
 さらに、「日本依頼作品コンペティション」というカテゴリが新設された。この名称を最初に見たとき、私は映画祭側が作者に「依頼」して出品してもらったのか、変わったことをするなあと思ったが、これは勘違いで、ようするに「NHKみんなのうた」などテレビ放送用、ミュージックビデオ、CFなど商業用(依頼=発注者がいる)の作品を対象にしたコンペ、という意味だった。
 
 いずれにせよ、具体的なようで抽象的な名称のカテゴリに分けられて審査される、というのは変わらなかった。「寓話の現在」「虚構世界」などと言われると、鑑賞者に少なからず先入観を強いることになる。
 しかも、全2634作品(今大会)の応募作を一次選考にかけて、その選考審査委員らが各カテゴリに振り分けるのだから、作者(出品者)の意図との齟齬も気になる。
 結果的に、前回の第1回アニシズでは、一次選考委員など主催者側の強い主張が感じられ、「理解できる、ついてこられる人に見てもらえばいい」というような、観客を突き放す姿勢まで感じられた。
 しかし今大会では、その印象がだいぶ変わった。一次選考を経て本選に入った短編は72本(長編は4本、合計76本)だったが、具体的には、後編で述べたい。

3)長編コンペティション
 そもそも尺数(長さ)がどのくらいなら長編か、というのは映画祭によって若干違うのだが、アニシズでは上映時間30分以上の作品を「長編」とした。
 その長編の応募が何本あったのかは、私はデータを持ち合わせていないが、国内外の同種のアニメーション映画祭とほぼ変わらない4本の長編が一次選考を経て本選に入った。
 その具体的な内容や印象は、これも後編で述べるが、長編コンペで驚いたのは、いや、そればかりか今回の第2回アニシズでこれが一番驚いたことだったのだが、長編コンペのグランプリを観客の投票で選ぶ、というシステムだった。
 他の映画祭では、制作者や研究者らが審査委員となって、賞を決定する。第2回アニシズでも、短編コンペ、環太平洋アジアユースコンペ、日本依頼作品コンペでは、それぞれ3~5人の審査委員らが賞を決める。
 しかし長編だけは審査委員がおらず、観客の、いわば人気投票でグランプリを決めるのである。私が知る限り、国内外を含めてこのシステムはほとんど初めてのことではないかと思う。
 非常にユニークで、観客としてはエキサイティングだが、制作者(出品者)の立場からすれば、どのようになるのだろう。
 しかも、受賞作品の傾向は、そのまま映画祭の傾向につながるだけに、観客投票による賞決定は、その「映画祭の傾向」にどんな影響を与えることになるだろうか。
 
 後編では、出品作や受賞作について述べていく。