内田康夫さん、他界 :「テレビアニメ夜明け前」に立ち会った人

 内田康夫さん死去、びっくりのニュースだが、83歳、もうずいぶん御歳だったことにも驚いた。
 私はこう見えても「浅見光彦シリーズ」のファンで、若い頃に何十冊も読んだが、その作者の内田さんが作家に転向する前にアニメーターだったことは、関西のアニメ史を調査するに及ぶまでまったく知らなかった。
 
 東洋大学中退後、東京でテレビCMのプロダクションに勤めていた内田さんは、そのときのメンバーが大阪で一光社(いっこうしゃ)というプロダクションを設立することになり、内田さんもメインスタッフのような形で移籍した。1957年のことである。
 当時、NHKに続いて民間放送が続々と始まり、テレビCM用のアニメーションの需要が急増したころで、スタジオさえつくればいくらでも仕事があったようだ。しかし大阪は未開の地、そこで内田さんら数名が開拓者として乗り込んだ形である。
 そんな内田さんの元で修行を積んだ老アニメーターたちが、私の取材対象になり、成果は「テレビアニメ夜明け前」(ナカニシヤ出版、2012年)として刊行した。「テレビアニメ夜明け前」というタイトルには、『鉄腕アトム』以前の開拓者らの群像を描いたという意味をこめた。
 本書には、当時一光社が作っていた草野球チームのユニフォームを着た若き日の内田さんの写真や、内田さんはあまり原画を描かずに指導に徹し、作画は修行中のアニメーターの仕事だったというエピソードなどを収録することができた。
 
 もう一つ、浅見光彦シリーズの一つ「しまなみ幻想」という作品でモデルになった旅館があり、テレビドラマ版のロケでも使われたらしいが、かつて私が勤めていた京都精華大学で学んでいた学生の実家が、その旅館だった。
 
 もちろん実際にお会いしたことはないけれど、作品の読者だったことにはじまって、何かと縁のある作家さんだった。
 合掌。