中国動漫新人類

  
 今年初めに刊行され、大きな話題を呼んだが、私も日経ビジネス電子版連載時から愛読しており、そのあまりの面白さに、現代中国事情に精通する知人にその真偽を尋ねたところ、「非常に正確に書けている」との評価だった。
 
 ●「中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす」
  著 者: 遠藤誉
  出版社: 日経BP出版センター
  刊行年: 2008年
  定 価: 1700円
 
 
 
 本書については、すでに多くの論評や感想が出ているので、もはや私からコメントすることはないのだが、一つ、私自身の経験と重なるところがある。
 私は一昨年8月、中国の広州市に行き、そこで開催された日本のアニメ・漫画の大規模なイベント「動漫フェア」に参加した。内容は、コミケ東京国際アニメフェアを足して2で割ったようなものと考えてもらえばよい。つまり、企業ブースとアマチュアブースが混在し、さまざまな商品の展示・販売、コスプレなども盛んに行われている。
 驚くべきは、このイベントでは、わずか4日間の会期で12万人の参加者を集めたことで、中国の若者がいかに日本のアニメや漫画に関心を抱いているかというその一端に触れることができた。
 私は、市の青年文化宮がこのイベントの関連イベントとして開催したセミナーで、日本のアニメの歴史を喋ったのだが、少し意外だったのは、「タブー」がほとんどなかったことだ。大学生以上の年長の参加者主体だったからかもしれないが、たとえば女性の裸体が描かれる場面などはダメかと思ったら、『攻殻機動隊』のオープニングなども普通に上映できたし、戦時中のプロパガンダ作品なども上映できた。
 そして、講演後、2つの地元メディアから取材を受けたのだが、どちらからも訊かれたのは、「中国のアニメが、日本のアニメのように世界的に評価されるためには、どうすればいいのか?」というものだった。
 
 そんな経験もあったので、本書で書かれた現代中国事情は非常に興味深く、またリアリティがあったわけだ。
 もちろん、それほどまでに中国でアニメが広まったのは海賊版の流布であること、アニメ・漫画の人気にあわてて中国政府が自国内での産業育成に乗り出しつつも、テレビでの外国製(事実上日本製)アニメの放映枠に規制を設けるようになったことなど、ある種の影の部分についても触れることは、避けて通れない。
 
 全般的に、一般家庭でのアニメ受容の様相など、かなり個別的な事例を中心に書かれており、読み物としての面白さのほうが強いが、随所に統計的数値も盛り込まれていて、これらの数値や事例を拾っていけば、研究に供するための、現代中国における日本アニメ事情の全貌は把握できよう。
 当面は、本書を基準点として、今後どのように推移していくかを語ることになる、いわば基本図書としての価値を有していることは間違いない。