東映動画史の基礎資料(その2)

 
 研究者としての学派(?)からすると、私はあまり東映動画に肩入れする立場ではないのだが、もう2冊、紹介しておこうと思う。
 
 ●「作画汗まみれ 増補改訂版」
  著 者: 大塚康生
  出版社: 徳間書店スタジオジブリ事業本部
  刊行年: 2001年
  定 価: 1900円
 
 
 
 1982年に「アニメージュ文庫」として出版された本の大幅な増補改訂版。
 大塚康生は、東映動画設立直前からアニメ界に入り、以後一貫して第一線で活躍しているアニメーターだが、同時に、アニメ界での自身の仕事や業界の方向性等についても、多くの発言をしている。寡黙な人が多いアニメ界(アニメーター)にあって、比較的珍しい人だ。
 そのぶん、その発言の影響力も大きく、特に本書は、東映動画設立直後から大塚が退社するまでの10年強のエピソードが豊富に盛り込まれ、同時期が東映動画発達の上で極めて重要な時期であるために、その内容も貴重である。
 
 しかし、その発言力の大きさゆえ、大塚が伝えている内容が「正史」となることに、若干の危惧を覚える。
 特に、設立初期の諸事情については、大塚が伝えている内容では不十分な点も、また事実誤認もあるようだ。このあたり、私自身が当時の東映動画を知る別の人に取材して、明らかになりつつあるのだが、現在進めている仕事に関係するので、まだここでは書けないことはご容赦いただきたい。
 もっとも、これは歴史研究にあっては、いつでも起こりうることで、同じようなテーマで研究する人は、ぜひ、文献調査なら複数の文献を並立的に調査すること、可能な限り実地調査(インタビューなど)を行うことを意識して欲しい。
 ただし、東映動画設立初期のことを知る人も、もうほとんどが70歳を超えてきており、そろそろ、調査を急がねばならないだろう。
 
 
 ●「東映動画の成立と発達」
  編 者: 日本アニメーション学会研究委員会
  出版社: 日本アニメーション学会
  刊行年: 2002年
  非売品
 
 
 
 いまいち存在感が乏しい日本アニメーション学会が刊行した資料集。
 実質的に、私が編集長を務めた。
 この2年前(2000年)に、川崎市市民ミュージアムで開催された企画展「日本アニメの飛翔期を探る」(この図録も東映動画研究には重要)を発端として刊行されたものである。
 
 内容は、初期東映動画を知る人物へのインタビューや講演録が主体で、高畑勲(論考を寄稿いただいたが、この論考は前掲「作画汗まみれ」巻末に収録してあるものとほぼ同様)、大塚康生(講演録)、熊川正雄(インタビュー)、吉村次郎(インタビュー。「ホルス」等のカメラマン)を収録している。
 特に貴重なのは、戦前からキャリアがあり、東映動画の前身となった日動映画を知る熊川正雄へのインタビュー。熊川は現在92歳で健在だが、耳が相当にお悪くなっているようで、おそらくこの当時(85歳)に実施したインタビューが、最後のまとまった成果になるのではないかと思われる。
 
 「作画汗まみれ」は普通に購入可能だが、「東映動画の成立と発達」は、日本アニメーション学会会員に配布するために制作されたので、原則として入手困難だが、まだ在庫は相当にあるはず。
 興味のある人は、日本アニメーション学会HPから、問い合わせをしてみてほしい。「非会員は入手できない」などと、ラチがあかないようなら、私まで連絡をいただければ、かつ入手目的がアニメーション研究であれば、時間はかかるかもしれないが、対応します。(ただし、あまり多くの人には対応できかねるので、先着数名程度です)