川本喜八郎研究

 
 世界的な人形アニメーション作家であり、NHK人形劇「三国志」などの人形制作者としても知られる川本喜八郎は、今年83歳になるが、現役で活躍している。
 いわゆる研究対象として川本喜八郎を選んだという成果は、まだあまり出ていないが、そのぶん、世界の人形アニメーション史や映画史の立場からみた川本研究がすすむことを期待したい。
 
 ●「川本喜八郎
  構 成: 霜月たかなか
  出版社: 角川書店
  刊行年: 1994年
 
 
 
 川本喜八郎の足跡と作品データ等を盛り込んだムックで、最近刊行された「別冊太陽 川本喜八郎」(平凡社、2007年)とほぼ同様の趣旨で構成されているが、川本の足跡やスタッフインタビューなどは、こちらのほうが充実しているので、紹介することとした。
 一方、「別冊太陽」のほうは、川本と縁のあるさまざまな人が寄稿し、また最新作『死者の書』に関するページが充実しているため、両方とも手元に置くべきだろう。
 川本の作品と人物像を俯瞰する、基本文献である。
   
 
 ●「チェコ手紙&チェコ日記」
  著 者: 川本喜八郎
  自費出版
  刊行年:2002年
 
 
 
 川本喜八郎が、人形アニメーションの本質を学ぼうと、チェコのイルジ・トルンカのもとへ渡航した1963年3月からの約1年半の間に、日本の友人に宛てた手紙や自身の日記をまとめた、他に類を見ない資料集。
 川本と縁の深い、日本大学文理学部心理学科の横田正夫先生の手によって、A4判・約190ページもの冊子として自費出版された。
 ごくごく私的な内容の手紙や日記も盛り込まれているため、すべてを熟読するには及ばないのだが、日本での仕事にすべて見切りをつけて、意気込んでプラハに入ったものの、なかなか思うような仕事ができない川本の苛立ちや、人形アニメーションの実践的なことは、トルンカよりもむしろ門下のB・ポヤールに学んでいたことなど、若き人形アニメーション作家の奮闘ぶりが活き活きと伝えられている。
 川本の作品制作や世界観の背景をさぐるための、貴重な資料集である。
 
 本書は自費出版であるため、通常では入手不可で、現在も在庫があるかどうか、わからない。出版からかなり時間が経つので、在庫なしの可能性が高い。
 どうしても入手の可否を知りたい人は、横田正夫先生に「津堅のブログで知った」とした上で、問い合わせられたい。
 ただし、横田先生は、刊行に際して、「研究目的で制作したので、読後の感想文を返信することが購入の条件」とおっしゃっているので、この点を厳に心得て欲しい。