日本アニメーション映画史

著 者:山口且訓・渡辺泰
出版社:有文社
刊行年:1977年
  

  
 まずは、やはりこれ。
 刊行後30年を経ても、この本の内容を超える本は、出ていない。
 すべてのアニメーション研究者にとって必須の名著である。
 
 内容は、大きく3つに分かれている。
 第1部は戦前編で、執筆は山口且訓。日本で初めてアニメーションが制作されたとされる1917(大正6)年から終戦直後までの内容が扱われている。
 第2部は戦後編で、執筆は渡辺泰。戦後のアニメーション界復興から東映動画設立を再出発点として、1970年代半ばまでの内容が扱われている。
 そして、本書の最大の価値は、全体の半分を占める第3部「資料編」にある。1917年から本書刊行時点までのアニメーションの詳細な作品リスト(スタッフ名も詳しく列記)で、利用価値は極めて高い。昔のアニメーションを調べる人で、このリストを参照しない人はいないだろう。
 
 しかし、現在に至っては、もちろん問題点もある。
 第1部、第2部とも、近年とみに研究が進んでいるので、重要な書き漏らし事実もあるし、また誤りもあるのだが、これはどんな分野でも起き得ることで、やむを得ない。
 ただ、2人の著者とも、文献調査に頼りすぎて、現地調査(関係者へのヒアリングなど)が不足しているため、少し関係者に取材をすれば直ちに解決していたであろう内容が、文献情報のみで書かれているために、誤解を含む結果となっているのは、やや残念である。(例を挙げれば、第2部の東映動画長編に関する内容で、宮崎駿の存在や役割について全く触れられていないこと、虫プロダクション倒産の要因とされる長編『哀しみのベラドンナ』公開までの経緯など)
 そして、刊行時はテレビアニメ時代に入って15年も経っているのに、『鉄腕アトム』以降のテレビアニメ史の内容が少なすぎるのは、「時間とページ数の問題」と弁明されても、容認しがたい。
 
 それでも、繰り返しになるが、第3部の資料編の価値は全く色あせていないので、本書を手元におく重要性には変わりはない。
 
 残念ながら絶版になって時間が経つので、入手が容易ではないのが難儀だ。
 都道府県立レベルの図書館であれば、所蔵している可能性が高いので、閲覧するだけなら何とかなるが、本書は活用性が高いため、閲覧だけではなくぜひ原本を手元に置いておきたい。
 映画専門の古書店や、最近なら古書店の検索サイト「日本の古本屋」を活用できるので、ぜひ入手して欲しい。
 ちなみに、「日本の古本屋」を今見てみたら、ちゃんと数件出てきて、価格も3000〜5000円だった。これは、比較的安いと思われる。