ディズニー研究

  
 ディズニーは、良くも悪くも今日のアニメーションの基本形を構築し、また特に1928年のミッキー誕生以降、そして1937年の『白雪姫』以降、世界中のアニメーションに影響を及ぼし、それは現在に継続している。
 したがって、その研究も世界レベルで継続しているというべきだが、こと日本に関する限り、日本語で読めるディズニー研究関連文献は非常に少ない。
 ディズニー関連の文献そのものは多いのだが、そのほとんどが、いわゆる「ディズニー伝説」を声高に述べているものであり、信頼性に乏しい文献も少なくない。もっともこの傾向は、英語文献も同様である。
 そうした中で、ディズニー研究に供することのできる数少ない基本文献を3つ紹介しておきたい。
 
 
 ●「ディズニーの芸術」
  著 者: クリストファー・フィンチ(前田三恵子・訳)
  出版社: 講談社
  刊行年: 2001年
  定 価: 8000円
 
 
 
 1973年の初版以来信頼され続けているフィンチの名著の、1999年改訂版の邦訳である。図版が主体で、解説文はそれほど多くないのだが、ディズニー誕生から『トイ・ストーリー2』までの系譜が、わかりやすくまとめられている。
 
 
 ●「生命を吹き込む魔法」
  著 者: フランク・トーマス、オーリー・ジョンストン
        (スタジオジブリ・訳)
  出版社: 徳間書店
  刊行年: 2002年
  定 価: 9800円
 
 
 
 ディズニーを長く支えた9人のアニメーター「ナイン・オールド・メン」のメンバーである2人による、ディズニースタジオの制作システムを中心とした技術解説書の完訳本。約580ページの大部には、図版も多く盛り込まれているが、それ以上に、「ディズニーとは何か、そして何を成したのか」というエッセンスが凝縮され、ストーリー創作から、キャラクターデザイン、アニメート、キャラクターの演技、色彩、撮影、特殊効果、音楽、録音に至るまで、まさにディズニー作品の壮大な「事典」になっている。
 スケッチ類から本編写真に至るまで図版豊富で、ディズニーのシステムを詳細に言及した結果、アニメーション制作ハウツー本としても使える内容になっているが、いずれにしても、これを精読せずして、ディズニー研究は始まらないだろう。
 
 
 ●「ウォルト・ディズニー
  著 者: ボブ・トマス(玉置悦子、能登路雅子・訳)
  出版社: 講談社
  刊行年: 1995年
  定 価: 2900円
 
 
 
 最も詳細なディズニーの伝記の邦訳。
 原著は1976年初版で、トマス自身がディズニー本人への豊富な取材経験を踏まえ、かつディズニーの遺族やスタジオで共に仕事をしたスタッフらからもインタビューをとった上で成立したものである。いわゆる「ディズニー伝説」に流れることなく、緻密な筆致で、ディズニーの足跡を伝えている。
 
 ところで、なぜ日本でディズニー研究本が少ないのかという理由だが、これは、書く側の問題だけではなく、出版側の事情も大きく影響している。
 差しさわりがあるので、詳しくは書けないのだが、例えば図版の使用の有無に関わらず、つまりたとえ図版使用ゼロであっても、「ディズニーに関する本を出版する」というだけで、「ディズニー」という「ブランド」に対する高額の権利使用料を支払うことを要求されるという。
 こんな、既得権益を死守しようとするような、どこかの小役人のような状況が続く限り、まじめな、基礎的な研究書を出版することは不可能だろう。