稀にみる心地よさ −−石田祐康監督『ペンギン・ハイウェイ』

 遅まきながら、見てきた。
 しかし、私が今年見た長編アニメの中では文句なく最高作。もちろん私は今年公開の長編アニメを全部見ているわけではないので、あくまで「私の見た」ということではあるが、正直なところ、石田祐康監督がここまでの長編アニメを作るとは、思っていなかった。
 
 絵の動きから台詞ワーク、そしてキャメラワークに至るまで、何ともいえない心地よいリズム感があるのが、何より嬉しかった。
 しかしそこには、たとえば宮崎駿、たとえば杉井ギサブロー、たとえば出崎統、もっとたくさん挙げられようが、そんな先人たちの筆遣いや言葉遣いがごく自然に感じ取られ、それでいて石田監督特有の「石田節」も健在で、つまりは、てらいのない映像話法が、この作品を成功に導いている。おそらくこれが石田監督の人間的な個性であり、それがあますところなく作品に表れているところが爽快だ。
 
 しかし、謎だらけの映画である。特に、街に突然現れたペンギンの群れも、森の奥の草原に浮かぶ<海>:水の巨大な球体の謎は、結局明らかにされなかった。また、ペンギンや球体にまつわる人間模様も総じて薄味で、それはクライマックスに至ってもさほど変化はない。
 私はこれが、この作品の本質であり、価値だと考えるものである。時に眼の覚めるようなスピード感に圧倒される映像は完璧に作られているが、「お話し」としては隙だらけなのだ。実に不思議なことに、そのことが観客にとっての心地よさにつながっているのだから。
 
 この作品は、映画に対して「何かを求めている人」には不都合だ。なぜなら、「何も与えてくれない」からだ。
 そういうことではなくて、119分間、完全に映画の閉じられた世界に浸りこみ、映画が終われば「それで終わり」 したがって、ストーリーやキャラクターなどに、すぐに「理由づけ」をしたがる人も、おそらく見ていてしんどいだろう。
 いまどき、そんな作品に仕上がっているからこそ『ペンギン・ハイウェイ』は傑作なのであり、ある意味、待ち望まれていた長編アニメと言えよう。
 
 ただし、私は原作を読んでいない。こういう形でアニメや映画を見ることはいくらもあるが、本作はたぶん、そのことを気にせずによいのだろうと思っている。